独り言

特に配慮がない

No.161

短いユリポエがある
#小話

鏡の前で、血色のない手のひらの上にさらりとした液が落ちていく。
漆黒の硝子瓶から流れるそれは一体何なのだろう。ポエットは気になって仕方がなくて、頭上のヘイローをぴかぴか輝かせると背伸びをして隣を見上げた。
「なにしてるの?」
ポエットの目線の先、椅子に座ったユーリの夜空の色を少しだけ溶かしたような青銀色の長い睫毛が瞬いて、その間から覗く赤い瞳がほんの少しだけ笑った。
「油を塗っている」
さらりとした液──油を薄く伸ばした手のひらをそっと自分の頬に押し当て、ユーリは事実だけを答える。
「なんでー?」
背の白い羽をぱたぱたと揺らし、ずずいと首を伸ばしてもう一度問うポエットに、ユーリは手を顔に当てたまま少しだけ考えるように首を揺らしてみせる。
「肌をすべすべにするのだ」
「すべすべ?」
「すべすべ」
子どもの疑問を頷いて躱すと、ユーリはまるで大理石の彫像のような完璧な造形の指を滑らせる。美術品のような爪先は焦らず、擦らず、じっくりと顔を温めるように時間をかけて包みこんでいく。
幼い天使はその様子をひまわり色の大きな瞳でまじまじと見つめ、我慢できずに興味津々の声を弾ませた。
「わたしも!すべすべしたい!」
「おや……」
鏡台の前に座す姿というのは、少女の憧れを刺激するに足るものらしい。両手と羽を目いっぱい伸ばし、目を輝かせてねだる様子にユーリは思わず笑みを深くした。
「どれ、少し付けてやろう」
ユーリが薔薇より赤い自慢の羽を伸ばして己の腿を叩き、おいで、と示すとポエットは素直に呼ばれた先によじ登る。そして己の膝の上にちょこんと収まった天使の顔を鏡に映して、ユーリは自分の手のひらに残った油を塗ってやることにした。悪いものでは勿論ないが、小さな子どもに必要なものでもない。ままごとに付き合い、雰囲気が味わえればそれでいいからだ。
「それ」
「きゃー」
ユーリは己にしたのと同じように頬のあたりを手で包むように触れて馴染ませてやると、不思議な感触が面白いのだろう、ポエットはきゃらきゃらと笑って喜んだ。そのご機嫌と比例するようにヘイローはきらきらと光り、吸血鬼は種族柄、やや厳しい明るさに目をしかめて耐えることになった。
「ふしぎな匂い!」
「アイリスかローズか、そのあたりだな。じき消える」
子ども特有の弾力ある頬をむにむにと撫でて塗り込めると、ポエットは自分でも頬の感触を確かめるように何度か触り、それから鏡から顔を外して後ろのユーリを見た。
「ねぇねぇ」
「うん?」
「ほっぺ、すべすべになった?ユーリとおそろい?」
期待に満ちた瞳で問う天使に、ユーリは口元を抑えて笑った。
「おまえの頬がすべすべでなかったことはないぞ、ポエット!」

「オーキデのブラックが並ぶドレッサーの威圧感たるや」
「外商に以前のものは瓶が派手だと言ったらこれを持ってきただけだ。私が選んだわけではない」
「聞いたかい狼、これが生まれながらの支配者階級、本当の金持ちの姿さ。結局のところ5万10万の化粧品をカウンターで苦しみながら買う層が一番貧乏なんだ」
「アンタの言い方どーにかなんねぇスか?」
「お前が好きそうな……何だ、科学……細胞……?というのもあるようだったが」
「あーなんか怪しい宗教みたいなやつ……」
「おいおいボクに対するひどい偏見があるなぁ〜」
畳む

フローエヴァイナハテン

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